このき なんのき かさいみき

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元ラジオ局アナで今はフリーで活動中、河西美紀(かさいみき)のげんき・やるき・ほんきのつぶやき。

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ミッドナイトスワンと私

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9月25日に映画「ミッドナイトスワン」の公開が始まり、まもなく1か月。
観る前の注目度の高さも観た後の評価の高さも話題で、
まだまだ満席のところも多くあるようです。

・・・SNSやラジオの担当番組でもお伝えしているので今更ですが、
ブログには初めてなので改めて書かせていただくと、
この映画に私はバレエコンクールのアナウンス役で出演しています。

初めての映画現場のこと、実際の映画を観た感想、周りからの反応、
様々な切り口からいくらでも記せたはずが、いざ書こうと思うとうまく言葉にできなくて、
なんというか、とても大切で、重厚で、尊い感覚でいっぱいの映画で、
今まで映画への想いを心の中に温めていました。
でも、このままで公開が終わってしまったらそれこそ後悔すると思って、
今日は、今日こそは、じっくりPCの前に腰を据えて
ミッドナイトスワンという映画との関わりを時系列で全て話そうと思います。
ある種の自己満足・自己完結かもしれないけれど、自分のブログなのだし、
撮影裏バナシ的なことも書ける・・・かな?まあ、それはそれで。
推敲せずに一気に書いていきます。

☆☆☆

そもそもこの役のオファーが最初に来たのは昨年の10月でした。
「河西さん、久しぶり!」
電話の相手は大学時代にアナウンサー試験の時に知り合ったSくん。
Sくんは結果的に放送の道には進まず役者さんになりました。
今は自ら演じるのみならず、演者のキャスティング等をする企画会社を運営しています。
年賀状のやりとりは続いていましたが、連絡が来るのは何年ぶりかというレベルです・・・。

久しぶりー!という話をひとしきりしたあと
「河西さんって陰アナのお仕事してるよね?」と言われました。

「ある映画でアナウンスの役を探していて、監督に推薦したいなと思っているんだけどどう?」

自分の声で、しかもいつも日頃のお仕事で関わっている
発表会やコンクールの陰アナ(舞台袖で演目を読み上げる)の声で、
お役に立てるのであれば・・・でも、映画って、出たことも携わったこともない・・・

「あくまで最初は先方への提案だから最終的に決まるかどうかはわからないけれど」
「了解!私でよければ。ちなみに姿って映るの?」
「ううん、声だけ。撮影現場に行くか別のスタジオで声だけ録音するかはまだ分からない」
「わかった!いいよ」
「ありがとう!」

その後、数日して「河西さんのホームページのボイスサンプルも確認して
是非お願いしたいっていう回答だったよ」とSくんから返信が来ました。
日程調整をする中で「やはり撮影現場で直接アナウンスしてほしい」ということになり、
撮影は昨年11月上旬の某日、バレエコンクールの会場であるホールまで
新宿からロケバスに乗って行くことになりました。

何しろすべてが初めてなので緊張しました。
Sくんは現場には同行しないので完全に一人です。
事前にいただいた台本を持参し、現場では控室に案内され、出番をじっと待ちました。
バレエコンクールの現場ですので、観客役のエキストラさんもたくさんいらっしゃいました。
こうやって席の配置をされるんだなぁ、こうやってエキストラさんも演技をするんだなぁ、
こうやってお弁当を食べるんだなぁ、などと自分の出番以外にも興味津々です。

草彅剛さんは現場にいらっしゃいましたが、直接のやりとりはありませんでした。
草彅さん演じる凪沙は、客席で座ってバレエの舞台を見守るというシーンで
セリフもありませんでしたので、直接のお声も聴く機会はありませんでした。
1度だけ廊下ですれ違ったときは、既に本番のメイクでした。
オーラが半端なくて、今になって思えば完全に「凪沙さん」だったなぁと思います。

水川あさみさんはお隣の控室でメイクさんと談笑されていて、
その姿は見られませんでしたがとても和やかな雰囲気に聞こえました。
そのあとの本番で何テイクもホールの舞台上で娘の一果を抱きしめるのですが、
本番前と本番中のギャップが、やはり役者さんってすごいなと痛感させられました。

さて、時系列があやふやになってきますが、
私の出番は午後になってから訪れました。
何もまだ喋っていないうちにロケ弁当を朝と昼2食いただいてしまった!(笑)
バレエコンクールのシーンということで、アナウンスするマイクと長机が舞台袖に用意され、
こちらでお願いします!と言われました。

この環境自体はいつもとほぼ同じ。
照明さん音響さんも周りにいて、出番を待つ出演者が控えていて、
おかげで全く緊張しない空間です。
しかし、やはり撮影用カメラが入り、そこに飛び交う声は映画の現場です。

撮影の直前(だったか、午前中のうちだったか、記憶が曖昧ですが)
いずれにしても当日、実は大きな変化がありました。
「すみません、最初は声だけの予定だったんですけど、
やっぱり舞台袖もカメラに映り込むので、姿も映るかもしれません」
「!?!?!?」

これも実際の映画を観てくださると分かるのですが、
出番を待つ一果の姿を映す際に、後ろにアナウンス役=私の姿は
うっすらと、まさに「映り込み」ます。
Tシャツで行くわけにもいかないなと思って、ジャケットを着ていって大正解!!!
こうして声だけではなく実際に出演することが当日決まりました。
よって、メイクは無し。
でも、そのことに気づいたヘアメイクさんが
「え?映ることになったんですか?それならせめて・・・」と
その場でサイドの髪の毛を後ろで結んで下さいました。
たったそれだけのことでもスッキリ!プロの手にかかるとやはり違いますね。

一緒に画面の中に映らせていただいたのは、バレエ教室の実花先生を演じる真飛聖さん。
真飛さんとは一瞬やりとりがあります。
二人でアイコンタクトをとって私がアナウンスをします。
緊迫した空気の中ですが、そこには熱、というか温かい空気がありました。
待ち時間などに真飛さんは優しく気遣ってくださって、
もともと好きな方でしたが、この現場以降大ファンになりました。

内田監督から直々に演技指導をいただけたのも大変光栄でした。
予想外のことが起きるシーンだったので
「どうしたの?とアナウンスの人も心配そうに見守る」演技をする・・・。
その映像が使われるかはわからないということでしたが、
私自身、その頃には完全に目の前のバレエコンクールに入り込んでいました。

でも、不思議なのです。
演技だけど演技ではない。
なぜかといえば、私にとってはこの「陰アナ」という仕事は、日常の延長なのです。
もし実際にこういうことが起きたら、きっとこういう表情をし、そういう対応をするだろう。
日常の現場だけど非日常の撮影。
本当に素晴らしい体験をさせていただきました。

「河西さん、僕が合図したらアナウンスしてください」
「5秒前、4、3、2・・・」
監督助手の方々もとても分かりやすく指示をくださいました。
怖い人だったらどうしようと勝手に心配していたのですが
本当に優しくしてくださってどれだけお礼を言っても足りません。
ありがとうございました!!

ちなみに、テストがあって本番も一度ではなく複数テイク。
これは初めて知ったのですが(よく考えれば当然のことなのですが)
一度でちゃんとアナウンスできても様々な角度から撮影するので、
アップで撮ったり俯瞰して撮ったり、同じシーンを何度も行います。
番号と名前と演目、何度読んだか分かりません(笑)。
でも、そのうちのどれかが本編で使われているのですね。

大ホールに響くアナウンス、その声で動くバレリーナ、客席、
一体感が生まれる瞬間は、やっぱり演技だけど演技ではないような、私の大好きな日常でした。

全てが終わったのは夜の21時でした。朝の6時半集合を考えると本当に一日がかりで、
でもそれは私が関わったのは一日であって、
ここからさらに何日も何シーンも撮影は続くのだと思い、
スタッフの皆様はすごいなぁとしみじみ感じました。
貴重な体験をありがとうございました。

もちろん、この段階ではまだ映画の情報は何も公になっていませんでしたので
誰にも言わずに心の中に温めていました。
でも、きっと話題作になるのだろうなという予感は大いにありました。

☆☆☆

コロナで大いに揺れる2020年、まさかの連続で落ち込んでいた時、
Sくんから「ミッドナイトスワンの公開日が決まったよ」と連絡があり、
ほどなくして関係者向けの初号試写に呼んでいただきました。
どんな風に仕上がったのか、私が関わったのは1シーンだし、
全く分からないまま、作品と向き合いました。

・・・衝撃でした。

自分の出てくるシーンは全体の3分の2を過ぎたあたりでしたが
正直、自分が出ていたことを完全に忘れていた・・・
つまり、もう、この場で鑑賞できている理由付けが頭から完全に抜けてしまうほどに
物語に引き込まれ、心が揺さぶられ、体が震える感覚に襲われました。
自分の声が出てきて、ああ、バレエコンクールのシーンだと思い、別の緊張が走り、
ああ、こうだった、そうだった、現場の撮影を細かく思い出し、
私の姿はちょっと映るくらいのレベルかと思いきや結構映っていることに驚き、
でもすぐにまた現実のバレエの舞台に引き戻されました・・・
って、あれ、おかしいな、現実ってどっちだ?(混乱)

こういう風に映画はできるんだという感動の大きさと物語が訴えてくる波の大きさが、
同時並行で受け止められているのかいないのか、
もう、とにかく、すごいものを観ました。
すぐに感想をブログにUpしたかったのに、
言葉にするのが陳腐に思え、何も紡げませんでした。
明日にしよう、明後日にしよう、そう延ばせば延ばすほど、
その感想はさらに大きなうねりとなって自分の心の中で渦巻き、また言葉にできない、
感動というよりは「これを衝撃と言わずして何と言う?」という状況でした。
でも、他の方の感想を観ると、同じようなことが多く書かれていたので
やはり言葉に表せない何かが心に刺さる素晴らしい作品なのだと思います。

公開前日、私は自分の各種SNSでミッドナイトスワンのことを紹介しました。
「アナウンス役で出演している」旨を書くと、すごい反響をいただきました。
誰もが「ああ、あの映画!」と知っているのも特徴でした。
また、いつも発表会の陰アナを依頼してくださっているバレエ教室の先生や、
大学生の時にアナウンスの基本をマンツーマンで叩き込んでくださった恩師、
もっと遡れば高校生だった私に陰アナの仕事をさせてくれた当時の担任の先生、
感謝の気持ちを込めて出演の報告をし、喜んでいただきました。

公開当日、エフエム世田谷の担当番組では
「ミッドナイトスワン」プロデューサーの森谷雄さんにお電話でお話を伺いました。
「私、声の出演をさせていただき・・・」と紹介したら
「いや、河西さん、ちゃんとバッチリ映ってますよ!」と突っ込まれました(笑)。
真面目な話、あの大事なシーンに携わらせていただいたことは
どんなに感謝してもしつくせません。ご縁に感謝します。ありがとうございます!
このコロナ禍にこそ見てもらいたいものに仕上がったこと、
今日がこの映画の誕生日だという森谷さんの言葉は大いに印象に残りました。

そうして、公開スタート後、友人・知人からは感想が届きました。
みんな「素晴らしかった」「余韻に浸っている」「号泣」と
お世辞抜きの言葉が寄せられました。
作品の感想を私自身も語り合いたかったからすごく嬉しかったです。
また、陰アナのシーンについても触れてもらえていると、本当に励みになりました。
※同業者の山野本竜規くんが自身のブログに記してくれました。
嬉しすぎる!身に余る言葉!(照)・・・ありがとう!(感涙)
その記事はこちら

ちなみに私も公開してすぐにもう一度、今度は夫と2人で映画館に観に行きました。
1度目とは違ったところで心が揺さぶられ、2度目は涙があふれてきました。
草彅くん・・・すごすぎる・・・凪沙さん・・・
マスクがあってよかった・・・
出てくる人すべてが愛おしかった・・・ホントに、全ての人が。

実は初号試写の時、エンドロールに自分の名前があるのを見逃してしまっていまして(汗)、
今度はちゃんと発見できました。(思ったより早く出てくる)
夫は「見逃したって散々聞いていたから自分も気にしていたけど、分からなかった」って(爆)。
えーーーー!
でも普段は毒舌(というか正直)な夫が「これは素晴らしい映画だった」と大絶賛し、
「河西さん(と敢えて呼ばれた)、あなたの陰アナは素晴らしかった!」と褒めてくれました。
(日々の生活で褒められることはないので、
これはお世辞ではなく本音なのだろうと思って、素直に嬉しかったですね。)

・・・演目を読み上げるだけなら誰でもできることかもしれません。
しかし、プロとして陰アナをするにあたり意識していること、
この映画をきっかけに再認識しました。

耳に入ってくる声だけで情報がしっかり理解してもらえるように
今から観る人・聴く人のイメージの広がりを持ってもらえるように
今から出番を迎える人の背中をそっと押して最高の状態で送り出せるように

奥が深いなぁ、この仕事。
改めてこれからも真摯に向き合っていきたいと思います。

☆☆☆

と、とりとめなくミッドナイトスワンと自分のここまでの関わりを記してきました。
どうして映画が公開したタイミングで書かなかったの?と思われた方、
すみません、冒頭に記したようにどうしてもなかなか書けなくて、このタイミングでした。
でも、だからこそ、心からの言葉で書けたと思います。
一期一会、全てのことに感謝します。

2020年10月21日現在、まだまだ映画館でご覧いただけます。
とはいえ、全国的には徐々に上映館も少なくなってしまうと思うので、
まだの方は是非ご覧になってください。
本当に多くのことを感じる、心に刺さる作品です。
小説も買って読んでさらに理解が深まった今、私ももう一度観ようと思っています。
(この小説がまた素晴らしい!内田監督のオリジナルです。
映画では描かれていないシーンもたくさんあります。おすすめ!)

以上、ここまで長文をお読みいただきありがとうございました。

by mikikasai819 | 2020-10-21 18:16 | にっき(日々の出来事) | Comments(0)

by mikikasai819